手術後は左耳の穴が塞がってしまい、右耳で音を聞いている様子だった、とのこと。優れた聴覚で周囲の情報を聴き取るサイにとって、急に片耳が聴こえなくなるのは大変なストレスだろう。
さらに同時期の2月頃から、後肢の爪が伸び過ぎて痛みがあり、立ち上がるときにふらつくようになっていたという。
投薬しながら、爪を削ったり床にウッドチップを敷いたり足の負担を減らすような処置がおこなわれたが、4/10 の夜にはから立てなくなってしまった。
そして、13日の18時過ぎ、死亡が確認された。
「起立できない時間が続いたことで筋肉の損傷と循環の悪化が生じ、老廃物が溜まって複数の臓器に障害を引き起こしたと考えられます」と、死亡の経緯が報告されている。
参照記事2.
インドサイの「ター」が死亡しました
└─2023/04/17
https://www.tokyo-zoo.net/topic/topics_detail?kind=news&inst=tama&link_num=27938
インドサイの蹄の問題について、すぐに思い浮かぶのは金沢動物園での成功例だ。
野生では湿地に暮らすインドサイの場合、動物園のコンクリートの硬い床では足の裏や蹄に病変が起きることが多い。
金沢動物園ではインドサイの足に負担をかけないための徹底的な環境改善によってその問題を解決した。
この試みについては、インドサイの国際的血統登録を担当し、インドサイ飼育の世界的なメッカであり、ターが生まれた場所でもあるスイスのバーゼル動物園からも高く評価されている。
飼育担当者の試行錯誤を重ねた努力のおかげで、金沢動物園のキンタロウの蹄の長期の病変は治癒して再発もなく、39才直前まで生きることができた。
参照記事3.
タタミで暮らしたインドサイ
https://www.hama-midorinokyokai.or.jp/zoo/kanazawa/details/10-6.php
参照記事4.
飼育環境の改善によるインドサイの蹄病変の治癒例
https://www.hama-midorinokyokai.or.jp/zoo/author1709b/docs/04abaa4471722c01e7f732cc0c6310798dbf1504.pdf
多摩動物公園でもインドサイの足を守ることには注意を払い、放飼場や寝室にも脚への負担軽減のための木材チップを敷いていた。
しかし、蹄が伸び過ぎる前に、最悪の事態を予想して問題箇所の蹄のケアができていたら、ターはこんなに早く命を奪われることはなかったのではないかと、素人考えで思ってしまう。
■ ターの誕生日:
1996年11月22日、スイスのバーゼル動物園生まれ。
東山動物園のニルギリ(1990.1.23生まれ)とは異父姉弟。
2頭の母親は、エローラ。
■ スイスからの移動:
1998年10月8日、多摩動物公園へ。
2才にもならない早い時期に母親の元を離れた。
■ 多摩に新たなインドサイ導入
2002年3月にネパールのチトワン国立公園の野生由来のインドサイ、オスのビクラム(推定1才)とメスのナラヤニ(推定6ヶ月)が多摩動物公園へ。
野生由来のペアが導入されたことで、血統の多様性からみて、動物園生まれのターの繁殖への期待値は下がっただろう。
結局、ビクラムとナラヤニの間に繁殖はなかったが、ビクラムがダメならナラヤニとターとの繁殖でもまあ仕方ない、と思われながら、いつも二番手として、ナラヤニとの同居に時々駆り出されていたのではないか?実際、私も野生同士の2頭の子の誕生を大いに期待していた!
そう思うせいか、ターについては何となく、いつも水につかって昼寝をしているあまり期待されない気楽な長男坊のようなイメージを勝手に持っていたので、26歳の若さでの耳介の切断と立ち上がれないほどの後肢の痛み、というターの最期の苦しく厳しい状況を個人的には余計に気の毒に感じてしまう。
今後にターの飼育体験を活かすため、多摩動物公園には現在飼育中のビクラムとゴポンの蹄と足裏については日頃から細心の注意を払って早めの対処をして欲しい。勿論、担当者の方々も同じ考えだとは思うが。
2022年7月にに31才の誕生日直前に死亡した安佐動物園のクロサイ、ヘイルストーンに続いて、サイのように体重の重い大きな動物は本当に足が命だと改めて思い知らされた今回のターの悲報だった。
ブログ内関連投稿記事:
安佐動物公園のクロサイのヘイルストーン、起立困難で安楽死
https://sainomimy.exblog.jp/30144640/
2022.7.29
私がターに最後に会ったのは2022年12月22日のことだが、既に耳にも後ろ肢にも痛みがあったのだろう。このときは想像もしなかったが、年が明けてから4月13日に旅立つまでのターは本当に可哀想だったと思う!
2022.12.22 ター
1年前の国内のインドサイ飼育数は9頭であったが、2022年6月に金沢動物園のオスのインドサイ、キンタロウが39才を目前に死亡したのに続いて、また26才のターが死亡、この1年でインドサイは7頭に減ってしまった。
今のところ多摩のゴポンとビクラムに繁殖を期待するしかないが、日本のインドサイの将来はどうなっていくのだろう?